ヤングケアラーだった人の特徴と生きづらさ|家族を支えた子どもが大人になって抱えるもの

ヤングケアラー

子どもの頃から、家族の様子を見て自分が何をすべきか考えていた。親の体調が悪ければ食事を用意し、幼いきょうだいの世話をし、家の空気が悪くなれば、誰かが怒り出さないように気を配る。

学校では友人と笑って過ごしていても、帰宅する時間が近づくと、家で何が起きているのか気になり始める。親が落ち込んでいないだろうか。何か問題が起きていないだろうか。自分が帰らなければ、家の中が回らないのではないか。

ヤングケアラーとは、本来大人が担うと考えられる家事や家族の世話を、日常的に行っている子どもや若者を指します。病気や障害のある家族の介護、幼いきょうだいの世話、家事、通院の付き添いだけでなく、精神的に不安定な親の感情を支えることも、その負担に含まれる場合があります。

こうした子どもたちは、周囲から「しっかりしている」「家族思いで優しい」と評価されることがあります。しかし、その頼もしさの陰で、自分自身が助けを求めたり、安心して甘えたりする時間を失っていることがあります。

家庭を支えることが日常になっていると、子どもは自分の疲れより親の状態を優先し、寂しさや怒りを感じても、それを口にすることが難しくなります。

そして大人になってからも、人に頼られると断れない、自分のために時間を使うと罪悪感が生まれる、恋人や家族の機嫌を自分が整えなければならないと感じるなど、子どもの頃の役割が続く場合があります。

ヤングケアラーが生まれやすい家庭環境

ヤングケアラーが生まれる背景には、家族の誰かが支援を必要としていても、それを家庭の外から十分に補えない状況があります。

親が身体的な病気や障害を抱えている場合だけでなく、うつ状態、依存症、慢性的な夫婦不和、経済的な困難、家族の孤立などが重なると、子どもが家庭を支える役割を担うことがあります。

たとえば、母親の気分が不安定で、朝から寝込んでいる日が続いている。父親は仕事で不在がちで、家事やきょうだいの世話を頼める人もいない。子どもは学校へ行く前に洗濯を済ませ、帰宅すると夕食を準備し、親の様子を確認する。

そのような生活が続くと、家族のことを考える時間が増え、自分自身の学校生活や友人関係、休息に使える時間が減っていきます。

心理学者グレゴリー・ユルコヴィッチは『Lost Childhoods』において、子どもが親や家族の世話を引き受ける「親役割化(parentification)」を論じました。

親役割化は、親子の役割が逆転し、子どもが発達段階に見合わない責任を担う状態を理解するための概念です。

家族を手伝う経験は、子どもの責任感や思いやりを育てることもあります。しかし、その責任が長期間にわたって過大になり、子ども自身の生活や成長が後回しにされる場合には、心理的な負担が大きくなります。

大切なのは、家事を何時間行っているかだけでなく、その子が困ったときに頼れる大人がいるか、自分の時間を持てるか、責任から一時的に離れられるかということです。

家庭の中で担う役割がどのように形成されるのかは、機能不全家庭で育った人の生存戦略にも深く関係しています。

子どもが担う役割は、家事だけではない

ヤングケアラーの負担には、目に見える世話と、目に見えにくい感情面の世話があります。

食事の準備、洗濯、掃除、買い物、病院への付き添い、きょうだいの送り迎えなどは、周囲の大人も比較的気づきやすい役割です。

一方で、親の愚痴を聞き続けることや、夫婦げんかの仲裁に入ること、親が落ち込まないよう励ますこと、怒りがきょうだいに向かないように気を配ることは、家庭の外からは見えにくいものです。

親が子どもに「あなたしか頼れない」と言い、夫婦関係や仕事の悩みを繰り返し打ち明けることがあります。

子どもは、親が苦しんでいることを理解しています。そのため、自分が疲れていても話を聞き、親が少し落ち着くまでそばにいようとします。

しかし、その関係の中では、子ども自身の感情を受け止める人がいなくなる場合があります。

精神分析家ドナルド・ウィニコットは、子どもが自分の欲求や衝動を安心して表現できるようになるには、それを受け止める養育環境が重要であると考えました。

周囲の大人が子どもの状態に応じて関わることで、子どもは自発的な感情を持ち続けながら成長していきます。反対に、養育者の要求へ適応することが優先されると、子どもが本来感じていることと、周囲に見せる姿との間に隔たりが生まれる場合があります。

親が泣いているときには、自分も泣きたいとは言えない。親が苦しんでいるときには、自分の悩みを話せない。助けてほしい気持ちがあっても、それを伝えることに申し訳なさを感じる。

こうして子どもは、家族を支えることを覚える一方で、自分が支えられる経験を十分に持てないまま大人になることがあります。

「しっかりしているね」という言葉の裏側

ヤングケアラーとして育った人は、幼い頃から周囲に褒められることがあります。

「本当にしっかりしているね」「お母さん思いで偉いね」「年齢のわりに大人だね」。

そうした言葉は、子どもが担っている努力を認めるものでもあります。しかし、褒められることで、さらにその役割から離れにくくなることもあります。

しっかりしていれば認めてもらえる。人の世話をすれば必要としてもらえる。弱音を吐けば、周囲を困らせてしまう。

そんな感覚が根づくと、疲れていても頑張り続け、助けを求めるよりも自分で何とかしようとするようになります。

愛着理論を築いたジョン・ボウルビィは、子どもが養育者との経験を通じて、自分が助けを受けるに値する存在か、他者は頼れる存在かという期待を形成していくことを論じました。

家庭の中で支える役割ばかりを担ってきた子どもは、誰かに助けられることより、誰かを助けることに安心を感じる場合があります。

大人になってからも、仕事を抱え込み、頼まれごとを断れず、周囲から必要とされることで自分の居場所を確認しようとすることがあります。

その一方で、自分が病気になったり、休職したり、これまでのように働けなくなったりすると、誰の役にも立てない自分に強い不安を感じることがあります。

関連記事:親の感情を背負って育った人の特徴|機能不全家族と親役割化の影響

外では普通に見えても、内側ではずっと緊張している

学校では明るく過ごし、友人と笑い、勉強もきちんとこなしている。教師から見ても、特に問題があるようには見えない。

しかし、その子の頭の中では、家庭のことが繰り返し気になっている場合があります。

家に帰ったら親は起きているだろうか。今日は機嫌が悪くないだろうか。きょうだいは困っていないだろうか。

学校で友人と過ごしている時間にも、意識の一部が家庭へ向けられています。

このような状態では、目の前の勉強や遊びに集中しているように見えても、心身には負担が積み重なっている場合があります。

精神科医ベッセル・ヴァン・デア・コークは、長期にわたるストレスやトラウマの影響を、記憶や感情だけでなく、身体感覚や生理的な警戒反応を含めて理解する重要性を論じました。

家族の状態を予測し続ける生活では、周囲の小さな変化を見逃さないように注意を働かせることがあります。

親の声が少し低くなると胸が詰まる。家の中が静かすぎると、何か起きているのではないかと落ち着かなくなる。休日になっても何かしなければならない気がして、安心して休めない。

こうした緊張が長く続くと、眠りが浅くなったり、頭痛や胃腸の不調、疲労感が現れたりすることもあります。身体症状にはさまざまな原因があるため、必要に応じた医療的な評価とともに、生活の負荷を見ていくことが大切です。

大人になってから現れる生きづらさ

子どもの頃に担った役割は、親元を離れたあとも、人間関係の中で繰り返されることがあります。

恋人が落ち込んでいると、自分が何とかしなければならないと思う。配偶者が不機嫌になると、自分が悪かったのではないかと考える。職場で困っている人を見ると、自分の仕事が終わっていなくても引き受けてしまう。

相手の気持ちを考えることが自然になっている一方で、自分が何を感じているのかは分かりにくくなります。

休みたいと思っても、誰かが困っていると落ち着かない。自分のためにお金や時間を使うと罪悪感が生まれる。頼られることには慣れているのに、自分が助けられる立場になると、申し訳なさや不安を感じることがあります。

親役割化についてのユルコヴィッチの議論では、子どもがどれほどの責任を負っていたのかに加えて、その負担が家族の中でどのように扱われ、本人の発達や自己認識に影響したのかが重要になります。

自分の希望を持つことや、誰かに助けを求めることが難しくなっている場合には、子ども時代にそうした行動を安心して経験できなかったことが関係しているかもしれません。

また、家族の安定を自分の責任としてきた人にとって、親密な関係は安心と負担の両方を伴うことがあります。

誰かに必要とされるとうれしい。しかし、必要とされるほど自分の自由がなくなるように感じる。相手が弱っていると離れられず、距離を取ろうとすると見捨てるような罪悪感が生まれる。

そのような葛藤を抱えながら、誰かを支えることと自分を守ることの間で苦しくなる場合があります。

関連記事:機能不全家族で育った大人の特徴をチェック!末路に潜むリスクと回復の道

回復は、家族を見捨てることではない

ヤングケアラーとして育った人は、自分自身の生活を優先しようとすると、強い罪悪感を抱くことがあります。

親から離れて暮らすことを考えると、見捨ててしまうような気持ちになる。家族の頼みごとを断ると、冷たい人間になったように感じる。自分だけ楽しんでいると、家で苦しんでいる誰かのことが頭をよぎる。

その感覚には、子どもの頃から家族の安定を自分の責任としてきた経験が関わっている場合があります。

回復の過程では、これまで担ってきた責任を具体的に見直すことが重要です。

親の病気や生活の問題について、自分ができることはどこまでなのか。ほかの家族や公的な支援、医療・福祉サービスに任せられることはないか。自分の生活や健康を守るために、どのような距離を取る必要があるのか。

そうしたことを整理しながら、子どもの頃から当然だと思ってきた責任を少しずつ分けていきます。

家族を大切に思う気持ちは、そのまま持ち続けることができます。同時に、自分の人生にも時間や力を使うことができます。

人の世話をする能力を失う必要はありません。ただ、その力をどこまで使うかについて、自分で選べるようになることが大切です。

人との距離や責任の分け方については、自他境界とは何か|人との間に必要な境界線という視点から理解を深めることもできます。

家族のために生きてきた時間を、自分の人生につなげていく

ヤングケアラーとして過ごした子ども時代には、家族の生活を支えるために、多くの力を使ってきた時間があります。

親の不調を察知し、きょうだいを守り、家事をこなし、自分の感情を抑えながら一日を過ごしてきた。その経験によって、人の苦しさに気づく力や、困難な状況に対処する力が育った場合もあるでしょう。

しかし、その力を身につけるまでに、自分自身がどれほどの負担を抱えていたのかは、別の問題として見つめる必要があります。

本当は友人と遊びたかった。もっと自由に過ごしたかった。親に甘えたかった。誰かに助けてほしかった。

そんな気持ちが、長い時間を経て初めて見えてくることもあります。

子どもの頃には、家族の事情を理解し、自分が頑張ることで毎日を乗り切ってきたのかもしれません。しかし、大人になった今は、自分が何を必要としているのかを確かめながら、生活を選び直すことができます。

家族のために使ってきた力を、自分の身体を休ませることや、安心できる人間関係を築くこと、自分の希望を実現することにも向けていく。

その積み重ねの中で、家族を支える役割だけでは見えなくなっていた、自分自身の人生が少しずつ広がっていきます。

参考文献

  1. Jurkovic, G. J. (1997). Lost Childhoods: The Plight of the Parentified Child. Brunner/Mazel.
  2. Winnicott, D. W. (1960). Ego distortion in terms of true and false self. In The Maturational Processes and the Facilitating Environment (1965). International Universities Press.
  3. Bowlby, J. (1988). A Secure Base: Clinical Applications of Attachment Theory. Routledge.
  4. van der Kolk, B. A. (2014). The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma. Viking.

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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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