家族が集まると、自分が何をすればよいのか、誰かに言われる前から分かってしまう。父親の機嫌が悪ければ話しかけず、母親が疲れていれば家事を手伝い、きょうだいが怒られていれば間に入る。
学校では真面目で成績がよく、友人からも信頼されている。けれど家に帰ると、子どもらしく甘えたり、何も考えずに過ごしたりする時間がほとんどない。いつの間にか家族を安心させることが自分の役割になり、その役割を果たせないと、自分の居場所まで失われるように感じることがあります。
反対に、何をしても責められるため、家族から距離を取り、できるだけ存在を目立たせずに過ごしてきた場合もあります。
アダルトチルドレン(AC)とは、機能不全家庭や不安定な親子関係の中で身についた生き方が、大人になってからの自己評価や人間関係にも影響している状態を理解するための言葉です。正式な精神医学の診断名ではありませんが、子ども時代にどのような立場を引き受け、何を抑え、何を守ろうとしてきたのかを考える手がかりになります。
アダルトチルドレンが抱えやすい生きづらさ
仕事で成果を出しても、安心できる時間が短い。上司から褒められると、うれしさと同時に次の期待への負担が生まれる。恋人から親切にされても、自分が何かを返さなければならないと感じる。
人との関係がうまくいっているように見えても、本人の内側では緊張が続いていることがあります。
幼い頃から家族の中で特定の役割を担ってきた場合、自分が何を感じるかより、その場で何をするべきかが優先されやすくなります。
親が落ち込めば慰め、争いが起これば仲裁し、家庭が暗ければ笑わせる。家族の中で自分に求められることを理解する能力は育っても、自分が疲れているのか、寂しいのか、腹が立っているのかを確かめる機会は少なくなります。
その結果、大人になってからも、周囲からは頼りになると思われているのに、自分自身はどこにも寄りかかれないように感じることがあります。
また、家族の中で孤立した経験があると、人と親しくなりたい気持ちがあっても、相手に自分のことを知られるほど不安になる場合があります。
こうした生きづらさは、単に気を遣いすぎる性格としてまとめられるものではありません。どのような家庭で、どのような役割を引き受けていたのかによって、その後の苦しさの現れ方も異なります。
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家族を守るために身についた5つのサバイバル役割
アルコール問題のある家庭を対象とした家族支援の中では、子どもたちが担う役割として、ヒーロー、スケープゴート、ロストチャイルド、マスコットなどが論じられてきました。シャロン・ウェグシャイダー=クルーズは、家族が不安定な状態に適応する過程で、こうした役割が形づくられることを紹介しています。
さらに、親やきょうだいの世話を引き受けるケアテイカーの働きを加えることで、家庭の中で子どもが背負ってきた責任を整理できます。
ただし、これらは診断に使える固定的な五類型ではありません。デヴァインとブレイスウェイトらによる研究でも、家族内の生存役割を明確に独立した類型として測定することには限界が示されています。
同じ子どもが、学校ではヒーロー、家庭ではケアテイカー、友人の前ではマスコットとして振る舞うこともあります。親の状況が変化するにつれて、それまでとは違う役割を引き受ける場合もあります。
重要なのは分類することより、その役割を果たすことで何を得て、何を我慢し、何を失ってきたのかを理解することです。
1.ヒーロー|期待に応え続ける子
ヒーローは、勉強や進学、責任感、立派な振る舞いによって、家族の期待に応えようとする役割です。
家庭に問題があっても、自分だけは失敗してはいけない。親が夫婦げんかをしていても、学校ではよい成績を取らなければならない。親が疲れているなら、自分の悩みを話さず、安心させられるように振る舞おうとします。
よい成績を取った日には親が喜び、家庭の雰囲気が少し明るくなる。その経験が積み重なると、努力することが単なる目標ではなく、家族の関係を保つための働きにもなっていきます。
しかし、テストで満点を取っても、次はもっと難しい試験が待っています。褒められた喜びよりも、次の期待を裏切る恐怖が大きくなる場合があります。
大人になったヒーロー
仕事では有能で、責任ある立場を任されることがあります。一方、仕事を断ることや、自分の能力では対応できないと伝えることが難しくなります。
ミスをしたとき、仕事の一部分を修正すればよいという考えより、自分は期待を裏切ったという感覚が強くなることもあります。
心理学者ヒューイットとフレットは、完璧主義の研究で、自分自身に高い基準を課す傾向と、他者から完璧さを求められていると感じる傾向を区別しました。
家庭でヒーローを担ってきた人には、努力そのものを楽しむ気持ちと、認められなくなる恐怖から努力を続ける気持ちが、複雑に重なっている場合があります。
ヒーローが役割から自由になるために
仕事や勉強に打ち込む能力は、その人の大切な力です。必要なのは、その力を使うかどうかを自分で選べることです。
期待に応えたい日もあれば、今日は休みたい日もある。成果を目指すことと、無理な要求を断ることは両立します。
自分が成し遂げたことだけでなく、どのような仕事を引き受けたいのか、何を大切にして働きたいのかを考えることが重要です。
こうした家庭で育った大人の心理については、機能不全家族で育った大人の特徴でも詳しく扱っています。
2.スケープゴート|家族の緊張を引き受ける子
スケープゴートは、家族の中で問題児として扱われ、怒りや不満を集中的に向けられる役割です。
親の言い分に納得できず反論すると、反抗的だと責められる。学校で問題が起きると、家庭の苦労はすべてその子のせいだと言われる。ほかのきょうだいには許されることが、自分だけには許されない場合もあります。
このような家庭では、問題のある子どもとされる本人の言動ばかりが注目され、家族全体の緊張や不公平が見えにくくなります。
怒りの奥にある孤独
家族から繰り返し責められてきた人は、不公平な扱いに強く反応する場合があります。
自分だけが責任を負わされていると感じると、過去に誰も味方になってくれなかった経験が重なることもあります。
しかし、その怒りの奥には、自分もほかのきょうだいと同じように認めてほしかった、事情を聞いてほしかったという願いがある場合があります。
スケープゴートという役割がどのように作られていくのかは、機能不全家庭で育った人の特徴とスケープゴートで詳しく説明しています。
家族が決めた評価と自分自身を分ける
大人になってからも、誰かに責められると、内容を確かめる前に自分が悪いと思ってしまうことがあります。
一方、どんな注意も不当な攻撃のように感じられる場合もあります。
そのようなときには、実際に何が起き、誰にどのような責任があるのかを具体的に整理することが大切です。
家族の中で「問題児」と呼ばれていたことが、その人の人格全体を表すわけではありません。
3.ロストチャイルド|存在を小さくして生きる子
ロストチャイルドは、できるだけ目立たず、家族の衝突に巻き込まれないように過ごす役割です。
家族の会話が険悪になると自分の部屋へ戻り、本を読んだり、空想や趣味の世界へ入り込んだりする。困っていることがあっても、家族に負担をかけないように自分で解決しようとします。
周囲からは手のかからない子どもと思われますが、その静けさの中には、助けを求めても分かってもらえなかった寂しさが隠れている場合があります。
誰かに見つけてほしいのに、見つかると怖い
ロストチャイルドの苦しさは、一人でいることだけにあるとは限りません。
誰かに気づいてほしいと思う一方、自分に注意が向くと何を話せばよいのか分からなくなる。親しくなりたいのに、関係が近づくと相手から何かを求められることが怖くなる。
そのため、大人になってからも、一人でいると落ち着く一方、長く孤独を感じている場合があります。
静けさを失わず、人とのつながりを選ぶ
一人で過ごすことや、自分の世界を大切にすることは、その人の個性でもあります。
必要なのは、人付き合いの量を増やすことより、話したいときに話し、助けが必要なときに頼れることです。
親しい相手へ最初からすべてを話す必要はありません。自分が話せることから伝え、相手がどのように応じるのかを確かめながら関係を育てていくことができます。
4.マスコット|笑顔で家の空気を支える子
マスコットは、家族の緊張を和らげるために、冗談を言ったり、明るく振る舞ったりする役割です。
父親が不機嫌なとき、面白い話をして笑わせる。母親が落ち込んでいると、元気な姿を見せようとする。家族の誰かが笑ってくれると、一時的に安心できる場合があります。
そうした経験の中で、自分は明るくしていることで役に立てるのだと感じるようになることがあります。
苦しいときほど笑ってしまう
大人になってからも、集団の中で人を楽しませることが得意な場合があります。
しかし、自分のつらい経験を話しているときにも、思わず冗談を言ってしまうことがあります。相手が真剣な表情になると、重い話をしてしまったと感じ、慌てて話題を変えることもあります。
そのため、本人がどれほど苦しんでいても、周囲には十分に伝わらない場合があります。
笑顔の奥にある感情を大切にする
人を和ませる感性は、大切にしてよい能力です。
ただし、いつでも笑顔でいる義務はありません。
今日は落ち込んでいる、今は話す気力がない、誰かに話を聞いてほしい。そうした感情を表しても関係が続く経験によって、明るく振る舞うことを自分で選べるようになる場合があります。
5.ケアテイカー|家族の世話と感情を引き受ける子
ケアテイカーは、親の相談相手になり、きょうだいを世話し、家族の感情を整える役割です。
母親から夫婦関係の悩みを聞かされる。父親の怒りがきょうだいへ向かわないように間に入る。親が落ち込んでいるときには、自分の問題を話さず、支える側に回る。
そのような生活では、子ども自身が何を必要としているのかが、後回しになってしまう場合があります。
親役割化と、子どもが背負う責任
心理学者グレゴリー・ユルコヴィッチは、親子の役割が逆転し、子どもが大人の責任を引き受ける親役割化について詳しく論じました。
親役割化には、家事や介護などの実務的な役割だけでなく、親の孤独や不安、夫婦間の葛藤を受け止める感情的な役割もあります。
家族を手伝うこと自体が問題になるわけではありません。負担が年齢に見合っているか、子ども自身の生活や感情が尊重されているかが重要です。
大人になっても世話を続けてしまう
職場では困っている人を放っておけず、恋人が落ち込んでいると自分の予定を取り消して支えようとする。
その一方、自分がつらいときには人を頼れないことがあります。
誰かを支えることに慣れすぎていると、支えられる立場になることが申し訳なく感じられる場合があります。
人への思いやりを保ちながら、自分が引き受けられる範囲を考えることが重要です。
こうした問題は、自己犠牲がやめられない心理とも深く関係しています。
サバイバル役割が大人の人間関係に残すもの
子どもの頃に身につけた役割は、家庭から離れたあとも、仕事や恋愛、人間関係に現れることがあります。
ヒーローは成果を出し続け、スケープゴートは不公平な扱いに敏感になる。ロストチャイルドは親密さの中で自分の気持ちを表現しにくくなり、マスコットは苦しいときほど明るく振る舞う。ケアテイカーは相手の問題を引き受け、自分の生活を後回しにする。
ただし、これらの役割には、それまでに育ててきた能力もあります。
ヒーローの努力する力、スケープゴートの不正に気づく力、ロストチャイルドの観察力、マスコットのユーモア、ケアテイカーの思いやり。
回復では、それらを否定するより、自分の意思で使えるようになることが大切です。
たとえば、職場では責任感を発揮していても、すべての仕事を引き受ける必要はありません。友人を楽しませることが好きでも、自分が疲れている日には静かに過ごせます。
家族の中で役割を果たすことで得てきた居場所を、大人になった現在は、別の方法でつくれる可能性があります。
役割の外側にいる自分を取り戻すために
長いあいだ役割を担ってきた人にとって、自分の本音を尋ねられることが負担になる場合があります。
何をしたいのかと聞かれても、相手が何を望んでいるかを考えてしまう。休みたいと思っても、誰かが困っていることに気づけば、先に手伝おうとする。
そのようなときには、どんな場面で役割が現れるのかを具体的に確かめることが役立ちます。
仕事を頼まれた瞬間に引き受けていないか。家族から連絡が来ると、予定を変更する前提で考えていないか。誰かが落ち込むと、自分が明るく振る舞わなければならないと思っていないか。
そして、その場で自分に何ができ、何をしたいのかを考えます。
必要なときには断ってもよい。話を聞いてほしいと頼んでもよい。一人で過ごすことも、人と一緒に過ごすことも、自分で選んでよい。
役割の外側にいる自分を取り戻すとは、特別な人格に変わることではなく、今の自分が何を感じ、何を必要としているのかを生活の中で大切にしていくことです。
家族の期待に応える人生から、自分の感覚を持った人生へ
家族のために身につけた能力は、大人になってからも役立つことがあります。その能力によって仕事を続け、人を支え、困難な状況を乗り越えてきた経験もあるでしょう。
一方、その能力を使い続けることで、休むことや助けを求めることが難しくなっている場合もあります。
回復では、過去に必要だった行動を、現在も続ける必要があるのかを考えていきます。
誰かの期待に応えたいときには応える。けれど、自分の身体や生活に無理があるときには、その期待から距離を取ることもできる。
自分の希望を伝えても関係が続く。失敗しても、存在そのものが否定されるわけではない。誰かを助けていない時間にも、自分の生活を大切にできる。
そうした経験が積み重なることで、家族の中で与えられた役割から少しずつ自由になり、自分自身の感情や意思を持って生きることができるようになります。
参考文献
- Wegscheider-Cruse, S. (1981). Another Chance: Hope and Health for the Alcoholic Family. Science and Behavior Books.
- Devine, C., & Braithwaite, V. (1993). The survival roles of children of alcoholics: Their measurement and validity. Addiction, 88(1), 69–78.
- Hewitt, P. L., & Flett, G. L. (1991). Perfectionism in the self and social contexts: Conceptualization, assessment, and association with psychopathology. Journal of Personality and Social Psychology, 60(3), 456–470.
- Jurkovic, G. J. (1997). Lost Childhoods: The Plight of the Parentified Child. Brunner/Mazel.




トラウマ、解離、愛着の傷、複雑性PTSDなど、心身に残った防衛反応を丁寧に見ていきます。話すことだけに頼らず、身体の反応や安心の感覚も大切にしながら、回復の土台を整えていきます。
過緊張や生きづらさを、育った環境や親子関係のなかで身についた生存反応という視点から見つめ、身体と神経系から安心を取り戻していくための22のレッスンをまとめています。