誰かに大切にされたいと思っているのに、優しくされると戸惑ってしまう。自分の話を聞いてくれる人が現れるとうれしくなる一方、その人との距離が縮まるほど、いつか嫌われるのではないかと不安になる。
恋人から連絡が来ると安心し、返信が途切れると胸がざわつく。相手が何気なく口にした言葉を何度も思い返し、少し表情が変わっただけで、自分が何か悪いことをしたのではないかと考え始める。
愛されたい気持ちは強いのに、いざ誰かが近づいてくると、身構えてしまうことがあります。
愛情不足で育った人の苦しさは、親から優しい言葉をかけてもらえなかったという一つの経験だけでは説明できません。
子どもの頃、寂しいときに誰にも気づいてもらえなかった。困ったときに助けを求めても、十分に応じてもらえなかった。親の機嫌がよい日は安心できても、悪い日には自分の存在まで否定されるように感じた。
そうした日々の中で、誰かに頼りたいという願いと、頼れば傷つくかもしれないという不安が、同時に育っていく場合があります。
親には愛情があったかもしれません。しかし、親が愛情を持っていたことと、子どもが必要としていた安心や応答を十分に受け取れたことは、必ずしも一致しません。
愛情不足を理解するうえで大切なのは、親の気持ちだけではなく、子どもがその関係の中で何を感じ、何を必要としていたのかということです。
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愛情不足は、身体の警戒として残る
子どもは、親の声や表情、日常のやり取りを通して、人と一緒にいる時間を経験していきます。
困ったときに声をかけると、顔を向けてもらえる。悲しいときには話を聞いてもらい、何かを失敗しても、落ち着いてやり直すことができる。
そうした経験が積み重なると、他者に助けを求めることや、自分の気持ちを表現することが、少しずつ自然なものになっていきます。
一方、親に話しかけても無視されたり、日によって態度が大きく変わったりする場合、子どもは相手の様子を確かめてから行動するようになります。
今日は話しかけてもよいのだろうか。甘えたら嫌がられるだろうか。何か頼むことで、親の機嫌が悪くならないだろうか。
そうした迷いが、日常の小さな場面に入り込んでいきます。
乳児の情動的な交流を研究したエドワード・トロニックは、養育者と乳児の反応がずれたあと、再び互いに応じ合う過程に注目しました。
子どもが必要としているのは、常に完璧な対応をしてくれる大人ではありません。気持ちが伝わらなかったときにも、関係を修復できる経験が重要なのです。
大人になってからも、誰かの声が急に低くなると緊張したり、親しい相手が黙ると自分の落ち度を探したりする場合があります。
ただし、そのような反応の原因を、すべて幼少期の経験だけで説明することはできません。現在の対人関係や生活環境も含めて、どのような場面で緊張が生じているのかを理解する必要があります。
本当の気持ちを奥へしまう|いい子でいることで失われる感情
寂しいと伝えたとき、親から忙しいと言われる。悲しくて泣いていると、そんなことで泣くなと叱られる。嫌だと訴えると、わがままだと受け取られる。
そうした経験が重なると、子どもは自分の感情を出すことより、親に受け入れてもらえる姿でいることを優先する場合があります。
学校ではしっかりした子として振る舞い、家庭では親を困らせない。何か頼まれるとすぐに応じ、親が疲れているときには、自分の問題を話さないようにする。
周囲からは、気配りのできる子ども、手のかからない子どもとして評価されるかもしれません。
けれど、その内側では、甘えたい気持ちや怒り、寂しさが十分に扱われないまま残ることがあります。
本当は助けてほしかった。自分だって心配してほしかった。何かを頑張ったときだけではなく、何もしていない時間にも一緒にいてほしかった。
そうした気持ちを言葉にする機会が少ないと、大人になってからも、自分が何を望んでいるのか分からなくなる場合があります。
友人から食事に誘われたとき、自分が行きたいかどうかより、断ったら相手がどう思うかを考える。恋人との予定でも、相手を喜ばせることが先になり、自分の疲労を後回しにしてしまう。
その結果、周囲からは優しい人と思われていても、本人は次第に自分の生活を自分で選んでいる感覚を失っていくことがあります。
こうした背景を考えるうえでは、愛着と親子関係が大人になって与える影響も手がかりになります。
大切なのは、親の期待に応えてきたことをすべて否定することではありません。その役割を果たすために、自分のどのような気持ちを後回しにしてきたのかを理解することです。
愛されたいのに、近づかれると怖くなる
恋人と一緒に過ごしているときには安心できるのに、別れたあと、急に寂しくなることがあります。
楽しかった時間を思い出しているうちに、相手は本当に楽しんでいたのだろうかと考え始める。昨日より返信が短い、いつもより会話が少ないという変化が気になり、そこに拒絶の意味を探してしまう。
相手へ確認したい気持ちは強いのに、何度も聞くことで嫌われるのではないかという不安も生まれます。
その結果、安心を求めて連絡を重ねる場合もあれば、傷つく前に自分から距離を取る場合もあります。
愛着研究者ミクリンサーとシェイヴァーは、成人の親密な関係において、見捨てられることへの不安と、他者へ頼ることを避けようとする傾向について研究しました。
親密さへの不安が強い場合には、相手の反応を繰り返し確認することがあります。一方、親密になるほど負担を感じる場合には、自分の必要を抑え、相手から距離を取ることがあります。
同じ人の中に、この二つの反応が現れる場合もあります。
相手が離れれば追いかけたくなるのに、近づいてもらえると怖くなる。好意を確かめるまでは落ち着かず、確かめられたあとには、その好意がいつ失われるのかを心配する。
そのような関係では、恋愛の楽しさよりも、関係を失わないための努力が大きくなってしまいます。
回復を考えるときには、相手から安心できる言葉をもらうことだけでなく、自分が相手に何を求めているのかを理解することが重要です。
連絡がほしいのか、会う時間が必要なのか、それとも一時的に強まった不安について話を聞いてほしいのか。
必要としているものが見えてくると、相手を試したり、気持ちを推測し続けたりする以外の方法も選びやすくなります。
苦しい関係から離れにくい理由
自分を傷つける相手との関係を、簡単に終えられないことがあります。
相手からひどいことを言われても、次に会ったときには優しくしてくれる。別れたいと思っても、以前の楽しかった時間が思い出され、もう少し待てば関係が変わるのではないかと考えてしまう。
幼い頃に、親の機嫌や関心が不安定だった場合、相手から認められるまで努力を続けることが、関係を保つための方法になっていた可能性があります。
親が冷たくても、自分がもっとよい子になれば振り向いてくれるかもしれない。失敗せず、親の望むように振る舞えば、いつか優しくしてもらえるかもしれない。
そうした期待が、大人になってからの恋愛にも重なることがあります。
相手が変わってくれることを願い、自分のつらさを軽く扱う。怒りを感じていても、相手には事情があるから仕方がないと考える。
ただし、苦しい関係から離れられない背景には、生活費、住居、子ども、脅迫、暴力、社会的な孤立など、現実的な条件も関わります。
トラウマボンドが生まれる心理を理解するときにも、過去の愛着経験だけに原因を求めず、現在の関係にどのような支配や制約があるのかを確認する必要があります。
相手を理解することと、自分が傷つく関係を続けなければならないことは、別の問題です。
甘えたいのに、甘えられない
体調を崩して寝込んでいても、誰かに助けを求めることをためらう。仕事でつらいことがあっても、自分の話をすることで相手の負担になるのではないかと考えてしまう。
恋人から何かしてあげようかと聞かれても、大丈夫だと答える。友人に悩みを話したいと思っていても、こんなことで相談するのは申し訳ないと感じる。
そのような人は、周囲から自立しているように見られることがあります。
しかし、本人の内側には、誰かに寄りかかりたい気持ちが残っている場合があります。
子どもの頃に頼ったことで拒絶されたり、弱さを見せたときに責められたりした経験があると、助けを求めることそのものに緊張が生まれる場合があります。
誰かに頼れば、その人の機嫌を損ねるかもしれない。親切にしてもらえば、あとで何かを返さなければならないかもしれない。
こうした不安があると、助けを受け取るより、自分で何とかするほうが楽に感じられます。
しかし、一人で何でもできることと、必要なときに人へ頼れることは、どちらも大切な能力です。
回復では、誰かへ全面的に依存することを目指す必要はありません。自分がどのような援助を必要としているのかを理解し、それを伝えられる相手を見極めていくことが重要です。
話を聞いてほしいのか、実際に手伝ってほしいのか、ただ近くにいてほしいのか。相手にしてほしいことを具体的に伝えられると、自分の希望が届く経験を持ちやすくなります。
他人の評価に揺さぶられる|認められないと不安になる心理
仕事で大きな成果を上げても、上司から何も言われなければ落ち着かない。褒められたときには安心するものの、少し時間が経つと、次も結果を出さなければならないと感じる。
恋人から大切にされても、相手の態度が少し変わると、自分に何か欠点があるからではないかと考える。
他者からの評価が、自分自身の価値を確かめるための重要な手段になっている場合があります。
精神分析家ハインツ・コフートは、他者から理解され、自分の経験を受け止めてもらうことが、まとまりのある自己感覚を育てるうえで重要だと論じました。
子どもが達成したことを親と一緒に喜び、失敗したときにも感情を理解してもらえる経験は、自分の気持ちや行動に意味を見いだすことにつながります。
一方、何かを成し遂げたときだけ認められていた場合には、結果を出し続けることが、自分の価値を保つための条件になっていることがあります。
そうした人にとって、休むことや失敗することは、単なる生活上の出来事ではなく、自分が認められなくなる危険のように感じられる場合があります。
大切なのは、他者からの評価を必要としなくなることではありません。
他人から褒められたことと、自分自身が納得していることを分けて考えることです。
誰かが評価してくれなかった日にも、自分は何を努力し、何を大切にして行動したのかを理解できるようになることが重要です。
感じないことで生き延びる|感情の麻痺と解離
寂しい気持ちを何度伝えても、誰にも応じてもらえない。怒りを表現すればさらに責められ、怖いと話しても受け止めてもらえない。
そうした経験が続いていると、次第に自分の気持ちを表現しなくなる場合があります。
やがて、つらい出来事が起きても、その場では何も感じられなくなることがあります。
傷つく言葉を向けられても、普段どおりに返事をする。家に帰ってから急に苦しくなる。過去の出来事を淡々と説明できても、当時の感情が十分に思い出せない。
強いストレスやトラウマに関連して、感情が遠くなったり、自分自身の実感が薄れたりする場合があります。
ただし、喜びを感じにくいことには、抑うつ、疲労、睡眠の問題なども関係します。すべてを解離として理解することは適切ではありません。
感情がわからない・身体の感覚がないでは、感情が薄れることと活動への関心を失うことの違いについても扱っています。
感情を取り戻そうとして、無理に悲しさや怒りを引き出す必要はありません。
現在の生活で、何が負担になり、どのような場面で感情が遠くなるのかを理解することが大切です。
心の奥で、まだ愛情を待っている子ども
大人になり、仕事を持ち、自分で生活できるようになっていても、子どもの頃に満たされなかった願いが残っている場合があります。
学校から帰ってきたときに、今日何があったのかを聞いてほしかった。泣いているときには理由を問い詰めるより、そばにいてほしかった。
何かを頑張ったときだけではなく、疲れて何もできない日にも大切にしてほしかった。
そうした願いは、年齢を重ねたからといって自動的になくなるとは限りません。
親から得られなかったものを、現在の恋人や友人へ強く求める場合もあります。
しかし、現在の相手との関係には、その相手自身の気持ちや限界があります。
過去に満たされなかった願いと、現在の相手へ求めたい関わりを区別することが重要です。
子どもの頃の自分が何を必要としていたのかを理解することで、現在の人間関係で生じる寂しさや不安の意味も、少しずつ見えてくる場合があります。
愛情不足からの回復は、身体に安全を伝えることから始まる
誰かと一緒にいることが負担になる場合、無理に親密な関係を増やす必要はありません。
安心できる相手であっても、会う時間が長すぎれば疲れることがあります。話を聞いてもらいたい日もあれば、一人で考えたい日もあります。
回復に向けては、自分がどのような関わり方を望んでいるのかを知ることが重要です。
たとえば、人と会ったあとにどのくらい疲れるのか、どのような話題で緊張が強くなるのか、相手へ自分の希望を伝えられているのかを確かめていきます。
人との関係では、相手が親切であることだけでなく、自分の意思が尊重されていることも大切です。
嫌なことを断っても責められず、自分の都合を伝えても関係が続く。必要なときに助けを求め、相手が応じられないときにも話し合える。
そうした経験を通して、人とつながることへの見方が変わる場合があります。
人との距離を調整しながら、安心できる関係を育てる
大切な相手だからといって、いつも一緒にいる必要はありません。
返事をする時間、会う頻度、共有する話題、身体的な距離には、それぞれ個人の希望があります。
相手から誘われたとき、自分も会いたいのか、それとも断ることが怖いのかを考える。
相手の相談を聞いているとき、今は十分に話を聞ける状態なのか、自分も休息を必要としているのかを確かめる。
そうしたことは、人間関係を冷たいものにするためではありません。
自分をすり減らすことなく、大切な相手と関わるために必要な調整です。
また、関係が近づいたときに強い不安が出る場合には、今の相手が実際に何をしたのか、自分は何が起こると予測しているのかを区別することが役立ちます。
人と関わりたくない気持ちの奥にあるものでも、人との関係で自分の感覚が分からなくなる経験について詳しく考えています。
セラピーでは、受け止めてもらえなかった感情を少しずつ扱っていく
愛情不足に関わる苦しさを心理療法で扱う場合、過去の出来事を急いで思い出すことより、現在の対人関係で何が起きているのかを理解することが重要です。
相手から返信が来ないとき、どのような考えが浮かぶのか。自分の希望を伝えるとき、何が怖くなるのか。助けを求めようとすると、身体や気持ちにどのような変化が生じるのか。
そうした体験を整理しながら、過去の経験と現在の関係を区別していきます。
また、相手に合わせ続けることなく、自分の考えを持ったまま関われる経験を増やしていくことも大切です。
心理療法の中でも、話したくないことを無理に話す必要はありません。自分の希望や負担を伝え、それについて相談できること自体が、これまでとは異なる関係を経験する機会になる場合があります。
愛情不足から回復していくために|自分の感情と欲求を取り戻す
長いあいだ自分の希望を後回しにしてきた場合、何をしたいのか尋ねられても、すぐには答えられないことがあります。
誰かと会いたいけれど、今日は疲れている。話を聞いてほしいけれど、一人で考える時間も必要だ。助けてほしいと思う一方、すべてを相手に任せることは望んでいない。
感情や欲求は、いつも一つにまとまっているわけではありません。
大切なのは、複雑な気持ちを持っている自分を否定せず、それぞれにどのような意味があるのかを理解することです。
自分の希望が分かるようになると、人との関わり方も変わる場合があります。
相手の期待に応えることだけでなく、自分が何を望み、何を引き受けられるのかを考えられるようになるからです。
愛情を待ち続けてきた人へ
幼い頃に欲しかったものが、今も心に残っていることがあります。
気づいてほしかった。話を聞いてほしかった。怖いときにそばにいてほしかった。何かができる自分だけではなく、何もできない自分も大切にしてほしかった。
そうした願いを持っていたことには、意味があります。
過去の人間関係を変えることはできなくても、現在の生活では、自分がどのような関係を望むのかを考えることができます。
誰かに大切にされることを求めながら、自分自身の意思も大切にする。
人とのつながりを必要とするときには求め、疲れているときには休む。相手の気持ちを理解しながら、自分の希望を伝える。
そのような経験を通して、愛されたいという願いに振り回され続ける関係から、自分の感情や生活を持ったまま人と関わることへ、少しずつ変化していく場合があります。
参考文献
- Tronick, E. Z. (1989). Emotions and emotional communication in infants. American Psychologist, 44(2), 112–119.
- Mikulincer, M., & Shaver, P. R. (2007). Attachment in Adulthood: Structure, Dynamics, and Change. Guilford Press.
- Kohut, H. (1971). The Analysis of the Self. International Universities Press.
- Schore, A. N. (2003). Affect Dysregulation and Disorders of the Self. W. W. Norton.





トラウマ、解離、愛着の傷、複雑性PTSDなど、心身に残った防衛反応を丁寧に見ていきます。話すことだけに頼らず、身体の反応や安心の感覚も大切にしながら、回復の土台を整えていきます。
過緊張や生きづらさを、育った環境や親子関係のなかで身についた生存反応という視点から見つめ、身体と神経系から安心を取り戻していくための22のレッスンをまとめています。